タバコ休憩の不公平感に人事はどう応える?【2026】制度設計の選択肢と厚労省サイト掲載の各社取組例
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、e-Gov 法令検索で取得した労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)・労働安全衛生法(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057)・健康増進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)の条文、厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)、および厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」内の「全国の受動喫煙対策事例」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/)を一次情報源として、2026 年 8 月時点の情報を第三者の立場で整理したものです。特定の会社の規程・運用について法的な判断を示すものではなく、個別の労務トラブルの解決を目的とするものでもありません。紹介する取組例は各社の是非を評価するものではなく、公的サイトに掲載された記載を事実として紹介するものです。規程の変更には所定の手続が必要になる場合があるため、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
「不公平だ」という声を、制度の言葉に翻訳する
人事に持ち込まれる「タバコ休憩が不公平」という相談は、そのままでは制度に落とせません。実際に語られている中身を分解すると、多くは次の 4 つのいずれかに整理できます。①席を離れている時間の総量が見えない、②不在の間の電話・来客・チャット対応が特定の人に偏る、③喫煙場所での会話で決まったことが共有されない、④においが気になるが個人には言いにくい。
この分解が重要なのは、①〜④はいずれも「喫煙」に固有の問題ではないからです。飲み物を買いに行く時間、雑談の時間、在宅勤務者の見えない離席、時短勤務者が参加できない立ち話にも同じ構造があります。喫煙だけを名指しした制度は、対象になった人に「自分だけ狙われている」という受け止めを生みやすく、施行後の摩擦が大きくなりがちです。逆に、離席と情報共有の一般ルールとして設計すれば、喫煙する人を排除せずに同じ効果が得られます。
出発点:法律が決めていること、決めていないこと
労働基準法 34 条 1 項は休憩時間の最低ラインを定め、2 項は原則として一斉に与えること(労使協定があるときはこの限りでない)、3 項は「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」と定めています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。この 3 項があるため、法定の休憩時間の中で何をするかは原則として本人の自由であり、「休憩時間中の喫煙を一律に禁止する」という設計は、この自由利用の原則との関係を慎重に検討する必要があります。
一方で、「タバコ休憩」という区分そのものを直接定めた法律はありません。したがって、制度設計で扱えるのは主に「休憩時間の外で短時間離席することを認めるか、どう認めるか」という範囲になります。ここを最初に切り分けておくと、社内の議論が「法律ではどうなっているのか」という水掛け論から抜け出しやすくなります。
あわせて、そもそも「どこで吸えるか」は健康増進法が枠組みを決めています。事務所・工場などの第二種施設は屋内が原則禁煙で、喫煙できるのは技術的基準を満たす喫煙専用室等に限られます。また 27 条 1 項は「何人も、特定施設及び旅客運送事業自動車等の第二十九条第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」と定めており、配慮義務は喫煙する人だけでなくすべての人に向けられた条文です(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。
会社としての義務・努力義務の全体像は 受動喫煙対策は何がどこまで義務かの整理 に、当事者どうしの受け止め方については 「タバコ休憩はずるい」と言われたときの整理 にまとめています。屋内に喫煙室を置かない設計にする場合は、社外の指定喫煙所までの往復時間が実務上の前提になるため、モットスイタイの喫煙所マップ でオフィス周辺の位置を確認したうえで、休憩時間の設計に織り込むと現実的です。
制度設計の 5 つのレバー
実際に人事が動かせる変数は、それほど多くありません。次の 5 つに整理すると、どこまでやるかの合意形成がしやすくなります。
- 時間: 休憩時間内に収めるのか、休憩時間外の短時間離席を認めるのか。認める場合、時間帯や回数の目安を置くのか。厚生労働省サイトに掲載された事例には、喫煙可能な時間帯を限定した例があります
- 場所: 屋内に喫煙専用室・指定たばこ専用喫煙室を置くのか、屋外喫煙所にするのか、社外の指定喫煙所に依存するのか。往復時間が変わるため、時間の設計と一体で決める必要があります
- 可視化: 離席時のチャットステータス変更や一声かけを、喫煙に限らず全員共通のルールにするか。これは不公平感の 4 分解のうち①②に直接効きます
- 情報共有: 決定事項をテキストに残すことをチームのルールにするか。喫煙場所での立ち話に限らず、在宅勤務者・時短勤務者にも同じ効果があります(③に対応)
- 手続: 誰がどこで決めるか。ガイドラインは、衛生委員会等の場を通じて労働者の意識・意見を十分に把握したうえで措置を決定することを示しています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)
ガイドラインが示す「組織的対策」は、そのまま制度設計の型として使えます。推進計画の策定(中長期的なものを含む)、担当部署・担当者の指定、受動喫煙防止対策の状況を衛生委員会等における調査審議事項とすること、標識の設置・維持管理、教育や相談対応による意識の高揚、そして労働者の募集および求人の申込みに当たって就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示すること、が挙げられています(出典: 同上)。
厚労省サイトに掲載された各社の取組例
厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」の「全国の受動喫煙対策事例」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/)には、企業名を明記した取組が掲載されています。以下はいずれも同サイトの記載に基づく事実の紹介であり、各社の取組の是非を評価するものではありません。
- 株式会社ニトリホールディングス: 喫煙スペースを本部屋上に限定したうえで、喫煙可能な時間帯を 10 時 30 分〜11 時、昼食後、16 時〜17 時の 3 つに限定。あわせて 2022 年開始の「禁煙マラソン」など任意参加のプログラムを実施していると記載されています(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area8_5.php)
- フタバ産業株式会社: 2025 年 4 月からの敷地内禁煙開始を決定し全従業員に周知、準備期間は 2 年。それに先立ち昼休憩を除く就業時間中の敷地内禁煙を実施し、喫煙所の代わりとなる休憩所に椅子を追加設置したと記載されています(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area5_6.php)
- 株式会社山陰合同銀行: 2019 年 10 月から従業員への周知を開始し、2020 年 2 月に顧客への周知、2020 年 4 月から敷地内禁煙・就業中禁煙を本格実施という段階的な導入が記載されています(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area3_6.php)
- 日本新薬株式会社: 2004 年度に敷地内分煙を開始し、2020 年 10 月に敷地内喫煙所を撤廃して就業時間内完全禁煙へ移行したと記載されています(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area4_6.php)
この 4 例を並べたときに共通して読み取れるのは、いずれも周知から本格実施までに期間を置いている点です。フタバ産業は準備期間 2 年、山陰合同銀行は周知開始から本格実施まで約半年、日本新薬は敷地内分煙の開始から就業時間内完全禁煙まで 16 年が経過しています。制度そのものの内容以上に、「いつ告知し、いつから適用するか」の設計が実務上の分岐点になっていることがうかがえます。
なお、これらの事例には禁煙支援プログラムの記載も含まれますが、本記事では効果や効能について一切評価しません。禁煙に関する取り組みを検討する場合は、公的機関の案内や医療機関にご相談ください。制度としては、参加・不参加を任意とし、参加しない選択が処遇に影響しない設計にしておくことが、後述の「排除しない設計」につながります。
喫煙する人を排除しない設計にするために
受動喫煙対策の目的は、望まない受動喫煙を防ぐことであって、喫煙する従業員個人の処遇を不利にすることではありません。この線引きが曖昧になると、制度は「健康施策」ではなく「特定の従業員への圧力」として受け取られ、現場での抜け道探しを招きます。設計段階で次の点を確認しておくと、そのリスクを下げられます。
- ルールの対象を「喫煙」ではなく「休憩時間外の離席」全般にできないかを先に検討する。飲み物の購入・雑談・私用の電話も同じ枠で扱えば、名指し感が生まれにくくなります
- 禁煙支援プログラムへの参加・不参加は任意とし、参加しないことが人事評価・配置・昇進に影響しない旨を明示する
- 喫煙する従業員から意見を聴く場を設ける。ガイドラインが示す衛生委員会等での調査審議は、この場としてそのまま使えます
- 屋内を全面禁煙にする場合、代わりにどこで吸うことになるのかを会社側で把握しておく。周辺の指定喫煙所の位置や、路上喫煙を禁止する条例の有無まで含めて案内すると、ビル入口前や近隣店舗前でのトラブルを避けやすくなります
- 喫煙室を廃止する場合、そこにあった「短時間の休息」という機能の受け皿を用意する。前掲のフタバ産業の事例では、喫煙所の代わりとなる休憩所に椅子を追加設置したと記載されています
- 導入日を決め打ちせず、周知期間を設ける。前掲の各事例は、いずれも周知から本格実施までに期間を置いています
屋外で吸うことになる場合、自治体によっては路上喫煙を条例で禁止し過料の対象としている区域があります。会社としての案内を作る前に 自治体別の路上喫煙ルールのまとめ を確認し、基本的な配慮については 喫煙マナーの基本 もあわせて周知すると実務的です。
決め方のプロセスと、就業規則への反映
内容以上に効くのが、決め方です。担当者が単独で原案を作り、通達の形で降ろすやり方は、内容が妥当でも反発を招きやすい傾向があります。ガイドラインは、事業者は衛生委員会等の場を通じて労働者の意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握したうえで各々の事業場における適切な措置を決定すること、また推進計画の策定の際は事業者が参画し労働者の積極的な協力を得て衛生委員会等で十分に検討すること、としています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
就業規則や社内規程に落とし込む際は、所定の手続が必要になる場合があります。労働条件に関わる変更に当たるかどうかの判断を含め、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。本記事は一般的な整理を示すものであり、個別の事案について法的な結論を示すものではありません。
見落とされがちな 2 つの論点
1 つめは求人票です。ガイドラインは、労働者の募集および求人の申込みに当たっては、就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示することとし、明示する内容の例として「施設の敷地内又は屋内を全面禁煙としていること」「施設の敷地内又は屋内を原則禁煙とし、特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けていること」「施設の屋内で喫煙が可能であること」を挙げています(出典: 同上)。社内ルールを変えたら、求人票の記載も同時に更新する必要があります。
2 つめは配慮が必要な人への対応です。ガイドラインは、妊娠している労働者、呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療しながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者などに対して特に配慮を行うこととし、20 歳以上の労働者一般についても勤務シフト・勤務フロア・動線等の工夫を挙げています(出典: 同上)。また 20 歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないこと(清掃作業を含む)は明確に示されており、シフト設計の制約になります。
おわりに:個人を裁かず、仕組みで揃える
「タバコ休憩は不公平か」という問いに、法律は一律の答えを出していません。人事にできるのは、不公平感の中身を離席・情報共有・分担という制度の言葉に翻訳し、喫煙の有無にかかわらず同じ基準を適用する仕組みを作ることです。現場で働く一人ひとりの立場からの整理は 「タバコ休憩はずるい」と言われたときの整理、会社としての義務の範囲は 受動喫煙対策は何がどこまで義務かの整理、職場ルールの最新の全体像は 職場の喫煙ルールの最新まとめ をご覧ください。
タバコ休憩の制度設計を進める 5 ステップ
不公平感を制度の言葉に翻訳し、喫煙する人を排除しない形で合意形成するための手順。個別の規程判断は専門家にご確認ください。
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ステップ 1
不公平感の中身を 4 つに分解する
「不公平」という言葉のまま扱わず、離席時間の総量が見えない、電話・来客対応が偏る、決定事項が共有されない、においが気になるが言いにくい、のどれに当たるかを聞き取ります。喫煙固有の問題かどうかもここで切り分けます。
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ステップ 2
法律が決めている範囲を確認する
労働基準法 34 条の休憩時間と 3 項の自由利用、健康増進法による第二種施設の屋内原則禁煙、労働安全衛生法 68 条の 2 の努力義務を確認します。「タバコ休憩」を直接定めた法律はないため、設計対象は休憩時間外の離席の扱いに絞られます。
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ステップ 3
5 つのレバーで案を作る
時間・場所・可視化・情報共有・手続の 5 つで案を組み立てます。屋内に喫煙室を置かない案では、社外の指定喫煙所までの往復時間を先に実測し、休憩時間の設計に織り込みます。
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ステップ 4
衛生委員会等で意見を聴く
厚生労働省ガイドラインに沿って、衛生委員会等の場で労働者の意識・意見を把握します。喫煙する従業員が意見を述べられる場を明示的に確保し、推進計画と担当部署を決めます。
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ステップ 5
周知期間を置いて施行し、周辺文書を更新する
厚労省サイト掲載の各社事例はいずれも周知から本格実施まで期間を置いています。施行日を決めたら、就業規則・社内通達に加えて求人票の受動喫煙防止措置の記載、標識の掲示・除去もあわせて更新します。
よくある質問
Q.休憩時間中の喫煙を会社が禁止することはできますか?
A.労働基準法 34 条 3 項は「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」と定めています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。このため、法定の休憩時間中の過ごし方を一律に制限する設計は、自由利用の原則との関係を慎重に検討する必要があります。一方、どこで吸えるかは健康増進法の枠組みで決まり、第二種施設の屋内は原則禁煙です。個別の規程の可否は社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。
Q.タバコ休憩の回数や時間を就業規則で決めてもよいですか?
A.「タバコ休憩」という区分を直接定めた法律はないため、休憩時間の外での短時間離席の扱いは各社の就業規則・社内ルールに委ねられているのが実態です。厚生労働省サイトに掲載された事例には、喫煙可能な時間帯を 3 つに限定した例があります(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area8_5.php)。ただし規程の変更には所定の手続が必要になる場合があるため、専門家にご確認ください。
Q.喫煙者だけを対象にしたルールは避けたほうがよいのでしょうか?
A.本記事は法的な可否を判断するものではありませんが、実務上は「休憩時間外の離席」全般のルールとして設計するほうが、名指し感が生まれにくく施行後の摩擦が小さくなりやすいという考え方があります。飲み物の購入や私用の電話も同じ枠で扱えば、不公平感の中身である「離席の総量が見えない」「対応が偏る」に同じ効果で対処できます。
Q.制度を変えるとき、どこで決めればよいですか?
A.厚生労働省ガイドラインは、事業者は衛生委員会、安全衛生委員会等の場を通じて労働者の意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握したうえで適切な措置を決定すること、推進計画の策定の際は労働者の積極的な協力を得て衛生委員会等で十分に検討することを示しています(出典: https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。担当者の単独判断ではなく、この手続を通すことが想定されています。
Q.社内ルールを変えたら、ほかに更新が必要な書類はありますか?
A.求人票の記載があります。ガイドラインは、労働者の募集および求人の申込みに当たって就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示することとし、「敷地内又は屋内を全面禁煙としていること」「原則禁煙とし特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けていること」「施設の屋内で喫煙が可能であること」を例示しています(出典: 同上)。標識も、喫煙室を撤去するときは除去する必要があります。
