会社の受動喫煙対策は何がどこまで義務?【2026】労働安全衛生法 68 条の 2 と健康増進法を総務目線で整理
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、e-Gov 法令検索で取得した労働安全衛生法(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057)および健康増進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)の条文、厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(令和元年 7 月 1 日 基発 0701 第 1 号、https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)、厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/)を一次情報源として、2026 年 8 月時点の制度を第三者の立場で整理したものです。特定の会社の規程・設備・運用について法的な判断を示すものではなく、個別の紛争解決を目的とするものでもありません。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署・都道府県労働局、施設所在地を管轄する保健所、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
まず押さえる:2 つの法律の役割分担
ガイドラインは、両法の関係を明確に書き分けています。健康増進法について「多数の者が利用する施設等の管理権原者等に、当該多数の者の望まない受動喫煙を防止するための措置義務を課すもの」、労働安全衛生法について「職場における労働者の安全と健康の保護を目的として、事業者に、屋内における当該労働者の受動喫煙を防止するための措置について努力義務を課すもの」と整理したうえで、両者で求められる事項を一体的に示すことを目的としています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
ここが実務で混乱しやすいところです。「努力義務だから何もしなくてよい」と読めてしまう場面がありますが、同じ職場に対して健康増進法側の措置義務が並行してかかっています。逆に「法律で全面禁煙が義務づけられている」という理解も正確ではありません。第二種施設に求められているのは屋内の原則禁煙であって、技術的基準を満たす喫煙専用室等を設ける選択肢は法律上残されています。この 2 点を最初に共有しておくと、社内の議論が空回りしにくくなります。
なお、ガイドラインは「屋内」を「外気の流入が妨げられる場所として、屋根がある建物であって、かつ、側壁がおおむね半分以上覆われているものの内部を指し、これに該当しないものは『屋外』となること」と定義しています(出典: 同上)。屋外喫煙所を設ける際、屋根と側壁の作り方によっては「屋内」に該当し得るため、設計段階でこの定義に当てはめて確認しておく必要があります。
労働安全衛生法 68 条の 2 が求めていること
条文は次のとおりです。「事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。」(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057)。文末が「努めるものとする」であるため努力義務と位置づけられますが、注目したいのは「当該事業者及び事業場の実情に応じ」という文言です。全社一律の正解を示す条文ではなく、事業場ごとに実情を把握したうえで措置を決めることを想定した作りになっています。
その「実情の把握」と「措置の決定」をどう進めるかを具体化したのが、ガイドラインの「組織的対策」の章です。事業者は衛生委員会、安全衛生委員会等の場を通じて労働者の意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握したうえで適切な措置を決定すること、とされています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。つまり、担当者が独断で決めるのではなく、委員会という手続を通すことが想定されている点が実務上のポイントです。
健康増進法が施設側に課していること
健康増進法 29 条 1 項は「何人も、正当な理由がなくて、特定施設等においては、次の各号に掲げる特定施設等の区分に応じ、当該特定施設等の当該各号に定める場所で喫煙をしてはならない」と定め、第一種施設については特定屋外喫煙場所・喫煙関連研究場所以外の場所を、第二種施設については喫煙専用室・喫煙関連研究場所以外の屋内の場所を、それぞれ喫煙禁止場所としています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。
あわせて 30 条は「特定施設等の管理権原者等の責務」として、喫煙禁止場所に専ら喫煙の用に供させるための器具・設備を喫煙できる状態で設置してはならないこと(1 項)、喫煙禁止場所で喫煙しようとする者に喫煙の中止または退出を求めるよう努めなければならないこと(2 項)、受動喫煙を防止するために必要な措置をとるよう努めなければならないこと(4 項)を定めています(出典: 同上)。1 項が禁止規定、2 項と 4 項が努力義務という構造です。灰皿を撤去する話が実務で最初に出てくるのは、この 1 項があるためです。
また 27 条 1 項は「何人も、特定施設及び旅客運送事業自動車等の第二十九条第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」、2 項は「特定施設等の管理権原者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない」と定めています(出典: 同上)。喫煙場所を「どこに置くか」も法律上の配慮対象である、という点は設計時に押さえておきたいところです。
自社はどの施設区分か
健康増進法 28 条の定義によると、第一種施設は「多数の者が利用する施設のうち、学校、病院、児童福祉施設その他の受動喫煙により健康を損なうおそれが高い者が主として利用する施設」および国・地方公共団体の行政機関の庁舎を指し、第二種施設は「多数の者が利用する施設のうち、第一種施設及び喫煙目的施設以外の施設」を指します(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。ガイドラインは第二種施設に「一般の事務所や工場、飲食店等も含まれる」と明記しています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
- 第一種施設(学校・病院・児童福祉施設・行政機関の庁舎など): 原則敷地内禁煙。屋外に設ける場合も、区画されていること・標識を掲示すること・施設を利用する者が通常立ち入らない場所であることという特定屋外喫煙場所の要件を満たす必要があります(出典: 同ガイドライン別紙 1)
- 第二種施設(一般の事務所・工場・飲食店など): 原則屋内禁煙。喫煙専用室(喫煙のみ可・飲食等不可)または指定たばこ専用喫煙室(加熱式たばこのみ・飲食等可)を技術的基準に適合させて設ける選択肢があります
- 喫煙目的施設(公衆喫煙所、喫煙を主たる目的とするバー・スナック等、店内で喫煙可能なたばこ販売店): ガイドラインに定義が置かれています
- 既存特定飲食提供施設: 令和 2 年 4 月 1 日時点で営業している飲食店で、個人または資本金 5,000 万円以下の会社が経営し、客席面積 100 平方メートル以下という要件をすべて満たすもの(出典: 同ガイドライン)
- 自社ビルではなくテナント入居の場合、事業者と管理権原者が異なります。ガイドラインは、この場合に健康増進法の規定が遵守されるよう管理権原者と連携を図る必要があるとしています
施設区分と喫煙室 4 種類の全体像は 改正健康増進法の解説記事 に整理しています。屋内を全面禁煙にした結果、休憩時に社外へ出る従業員が増える職場では、周辺の指定喫煙所の位置を モットスイタイの喫煙所マップ であらかじめ確認し、社内に案内しておくと、ビル入口前や近隣店舗前での喫煙をめぐるトラブルを避けやすくなります。自治体によっては路上喫煙を条例で禁止し過料の対象としている区域があるため、自治体別の路上喫煙ルールのまとめ もあわせてご確認ください。
総務が棚卸ししておく実務項目
ガイドラインの「組織的対策」は、そのまま総務のチェックリストとして使える内容になっています。以下はいずれも同ガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)に記載された事項です。
- 推進計画の策定: 事業場の実情を把握したうえで、受動喫煙防止対策を推進するための計画を策定する。安全衛生に係る計画や衛生教育の実施計画に項目を盛り込む方法も示されています
- 担当部署の指定: 企業全体または事業場の規模等に応じて担当部署・担当者を指定し、相談対応、状況の定期的な把握・分析・評価、問題がある職場への改善指導を所掌させる
- 労働者の健康管理等: 受動喫煙防止対策の状況を衛生委員会等における調査審議事項とし、産業医の職場巡視の際に実施状況へ留意する
- 標識の設置・維持管理: 喫煙専用室等を定めようとするときは、その出入口および施設の主たる出入口の見やすい箇所に必要事項を記載した標識を掲示しなければならない。喫煙専用室を撤去するときは標識を除去する
- 意識の高揚および情報の収集・提供: 受動喫煙による健康への影響、講じた措置の内容、健康増進法の趣旨等に関する教育や相談対応を行う
- 募集・求人時の明示: 労働者の募集および求人の申込みに当たっては、就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示する
標識については、管理権原者が義務に違反した場合に最大 50 万円の過料が科されることがあると厚生労働省サイトに記載があります(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/business/restaurant/type_2.php)。標識の様式は同サイトの標識一覧ページから入手できます。
20 歳未満の従業員と、配慮が必要な人への対応
ガイドラインは、健康増進法において喫煙可能な場所に 20 歳未満の者を立ち入らせることが禁止されていることから、20 歳未満の労働者を喫煙専用室等に案内してはならないことはもちろん、立ち入らせて業務を行わせないようにすること、と定めています。ここには喫煙専用室等の清掃作業も含まれると明記されています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。学生アルバイトが多い事業場では、シフトと清掃分担を具体的に見直す必要が出てきます。
また、妊娠している労働者、呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療しながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者など、受動喫煙による健康への影響を一層受けやすい懸念がある者に対して特に配慮を行うこと、とされています(出典: 同上)。20 歳以上の労働者についても、勤務シフト・勤務フロア・動線等の工夫、喫煙専用室等の清掃における配慮(室内に喫煙者がいない状態で換気後に行う等)、業務車両内での喫煙時の配慮が挙げられています。
喫煙室を設ける場合の技術的基準と助成金
第二種施設に喫煙専用室を設ける場合、ガイドライン別紙 1 は「出入口において、室外から室内に流入する空気の気流が、0.2 メートル毎秒以上であること」「たばこの煙が室内から室外に流出しないよう、壁、天井等によって区画されていること」「たばこの煙が屋外又は外部の場所に排気されていること」という 3 点を技術的基準として示しています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。指定たばこ専用喫煙室(加熱式たばこのみ)も同じ技術的基準に適合することが求められます。
費用面では、厚生労働省の受動喫煙防止対策助成金があります。同省ページには、助成率が 3 分の 2(主たる業種の産業分類が飲食店以外は 2 分の 1)、上限額が 100 万円、令和 8 年度の申請期日が令和 9 年 1 月 31 日(申請額が予算に達した場合は期日前に締め切る予定)と記載されています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049868.html)。対象となる事業主・事業場・措置の要件は年度により変わり得るため、検討時点で必ず同ページの最新版でご確認ください。
相談先と使える支援
ガイドラインは、支援制度を活用しようとするときの問合せ先として、助成金に関する事項は事業場の所在地を所管する都道府県労働局労働基準部健康主務課、受動喫煙防止対策の技術的な相談およびたばこの煙の濃度等の測定機器の無料貸出しについては厚生労働省ホームページで最新の問合せ先を確認すること、と案内しています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/kitsuen/index.html)。
健康増進法の施設側の義務に関する相談は、施設所在地を管轄する保健所が窓口になります。労働環境としての相談は所轄の労働基準監督署・都道府県労働局が窓口です。就業規則の変更手続や個別の労務判断が絡む場合は、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事は一般的な整理を示すものであり、個別の事案について法的な結論を示すものではありません。
おわりに:区分の確定から始める
職場の受動喫煙対策は、「義務なのか努力義務なのか」を一言で答えられる問いではありません。健康増進法が施設側に課す措置義務と、労働安全衛生法 68 条の 2 が事業者に課す努力義務が重なっており、まず自社の施設区分を確定させることが出発点になります。制度変更のときに社内で必ず出てくる「タバコ休憩の扱いをどうするか」という論点については タバコ休憩の制度設計と各社の取組例、働く一人ひとりの受け止め方については 「タバコ休憩はずるい」と言われたときの整理 にまとめています。新しい職場ルールの全体像は 職場の喫煙ルールの最新まとめ もあわせてご覧ください。
職場の受動喫煙対策を棚卸しする 5 ステップ
総務・人事が自社の現状を確認し、義務と配慮事項を切り分けて整理するための手順。個別の判断は所轄官庁・専門家にご確認ください。
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ステップ 1
自社の施設区分を確定する
健康増進法 28 条の定義に照らし、第一種施設・第二種施設・喫煙目的施設・既存特定飲食提供施設のどれに当たるかを確認します。テナント入居で事業者と管理権原者が異なる場合は、ビル側と連携が必要になります。
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ステップ 2
「屋内」に当たる範囲を図面で確認する
ガイドラインは屋内を「屋根がある建物であって、かつ、側壁がおおむね半分以上覆われているものの内部」と定義しています。既存の喫煙場所や屋外喫煙所の予定地をこの定義に当てはめ、屋内扱いになっていないかを確認します。
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ステップ 3
標識・設備・立入制限の現物を点検する
喫煙専用室等の出入口と施設の主たる出入口に標識が掲示されているか、喫煙禁止場所に灰皿等が残っていないか、20 歳未満の立入禁止が周知され清掃分担にも反映されているかを、現地で確認します。
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ステップ 4
衛生委員会等で実情を把握し推進計画に落とす
ガイドラインは、衛生委員会等の場を通じて労働者の意識・意見を十分に把握したうえで措置を決定すること、推進計画を策定することを示しています。担当部署を指定し、状況の把握・分析・評価の担い手を決めます。
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ステップ 5
費用と相談先を確認して実行計画を作る
喫煙室の設置・改修を検討する場合は、受動喫煙防止対策助成金の最新要件を厚生労働省ページで確認します。技術的な相談や測定機器の貸出しの問合せ先もあわせて押さえ、必要に応じて保健所・労働基準監督署・専門家に確認します。
よくある質問
Q.職場の受動喫煙対策は義務ですか、努力義務ですか?
A.両方が重なっています。労働安全衛生法 68 条の 2 は「事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする」と定める努力義務です(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057)。一方、改正健康増進法は施設の管理権原者等に措置義務を課しており、第二種施設は屋内が原則禁煙です。厚生労働省ガイドラインは、この両者を一体的に示しています。
Q.オフィスに喫煙室を作ることは法律で禁止されていますか?
A.禁止されていません。第二種施設では屋内が原則禁煙とされる一方、技術的基準に適合した喫煙専用室(喫煙のみ可・飲食等不可)や指定たばこ専用喫煙室(加熱式たばこのみ・飲食等可)を設ける選択肢が残されています。技術的基準として、出入口の気流が 0.2 メートル毎秒以上であること、壁・天井等によって区画されていること、たばこの煙が屋外に排気されていることが示されています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
Q.20 歳未満のアルバイトに喫煙室の掃除をさせてもよいですか?
A.ガイドラインは、20 歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないようにすることとし、そこには喫煙専用室等の清掃作業も含まれると明記しています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。20 歳未満と思われる者が立ち入ろうとしている場合は、声掛けや年齢確認により立ち入らせないようにすることも求められています。
Q.標識を掲示しないとどうなりますか?
A.喫煙可能な設備を持った施設には指定された標識の掲示が義務づけられており、管理権原者が義務に違反した場合には最大 50 万円の過料が科されることがあると厚生労働省サイトに記載されています(出典: https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/business/restaurant/type_2.php)。標識の様式は同サイトから入手できます。個別の事案の取扱いは、施設所在地を管轄する保健所にご確認ください。
Q.職場の受動喫煙について相談したいときの窓口はどこですか?
A.助成金に関する事項は事業場の所在地を所管する都道府県労働局労働基準部健康主務課、技術的な相談や測定機器の無料貸出しについては厚生労働省ホームページで最新の問合せ先を確認するようガイドラインが案内しています(出典: https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。健康増進法上の施設の義務については施設所在地を管轄する保健所、労働環境としての相談は所轄の労働基準監督署が窓口です。
