店先・入口前で吸われて困る店舗へ【2026】配慮義務の整理と「近隣の喫煙所へ案内する」打ち手
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/)、川越市・荒川区・世田谷区の公式案内を一次情報源として、2026 年 8 月時点の制度と、店舗運営で取りうる一般的な工夫を第三者の立場で整理したものです。個別の店舗や敷地について、どこまでが認められるかといった法的な判断を示すものではありません。近隣とのトラブルや、建物の管理規約・賃貸借契約に関わる問題については、自治体の窓口や、弁護士等の専門家にご相談ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
まず整理:屋内と屋外はルールが別
2020 年 4 月 1 日に全面施行された改正健康増進法により、多数の人が利用する施設の屋内は原則禁煙になりました。喫煙できる場所を設ける施設には、施設の主たる出入口と喫煙室の出入口の両方に指定標識を掲示する義務があります(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)。一方、店の前の歩道や軒先といった屋外は、この屋内規制とは別の枠組みです。
荒川区の案内では、屋外・私有地での喫煙は禁煙特定区域を除き規制の対象外である一方、望まない受動喫煙を生じさせることのないよう配慮することが義務であると説明されています(出典: 荒川区 https://www.city.arakawa.tokyo.jp/a033/kenkouiryou/kenkouzukuri/haryogimu.html)。つまり屋外は「一律に禁止されている」わけではなく、配慮義務と、自治体ごとの路上喫煙に関する条例が関わってくる領域です。店舗側の対応を考えるときは、この違いを前提に置くと整理しやすくなります。
健康増進法 27 条の配慮義務が二方向にかかる
配慮義務は、喫煙する人と施設側の双方にかかります。第 1 項は、喫煙をする際に望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならないというもの。第 2 項は、施設等の管理権原者が喫煙をすることができる場所を定めようとするときに、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならないというものです(出典: 川越市 https://www.city.kawagoe.saitama.jp/kenko/kenkozukuri/1014636/1006131/1006132.html)。
荒川区の案内では、施設等の管理者が灰皿を設置するなど喫煙場所をつくるときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならないと説明されています(出典: 荒川区 同上)。店先に灰皿を置くという判断は、この第 2 項に関わる話になります。置く・置かないのどちらを選ぶにしても、「どこに人が集まり、その煙がどこへ流れるか」を先に考えることが出発点になります。
灰皿を置くかどうかの判断
店先の灰皿は、置けば喫煙する人が集まる場所を事実上つくることになり、置かなければ喫煙する人がどこへ行けばよいかの情報が消えます。どちらか一方が常に正解ということはなく、立地と人の流れで判断が変わります。判断材料としては次のような点が挙げられます。
- 所在地が自治体の路上喫煙禁止区域に含まれるかどうか(区域と扱いは自治体ごとに異なります)
- 入口・窓・給気口・隣接するテラス席との位置関係。煙がどこへ流れるかは配置で大きく変わります
- 学校・病院・児童福祉施設などが近くにあるかどうか。第一種施設は敷地内禁煙とされています
- 通行量の多い歩道に面しているか、私有地側にスペースがあるか
- 近隣に公設または民間の指定喫煙所があるか。案内先があるかどうかで打ち手が変わります
判断に迷う場合は、自治体の担当窓口に相談するのが確実です。自治体によっては、路上喫煙や受動喫煙に関する相談窓口を設けています。世田谷区は受動喫煙相談コールセンター(03-5432-2928、平日 8 時 30 分〜12 時・13 時〜17 時 15 分)で、路上喫煙や歩きたばこ、受動喫煙などの相談を受け付けています(出典: 世田谷区 https://www.city.setagaya.lg.jp/01101/4803.html)。窓口の有無・連絡先は自治体によって異なるため、所在地の公式ページをご確認ください。
「やめてください」より「こちらへどうぞ」
店先での喫煙に困ったとき、掲示で禁止を伝えるのは自然な一手ですが、禁止だけでは「では、どこで吸えばよいのか」という問いが残ります。行き先が分からないまま追い出す形になると、隣の建物の前や少し離れた路地に移動するだけということも起こり得ます。
一方、「当店の前は禁煙です。喫煙をご希望の方は、〇〇の喫煙所をご利用ください」という形にすると、伝えている内容は同じでも、相手に取るべき行動が示されます。喫煙する人にとっても、ルールを守れる場所が分かるほうが動きやすく、店側にとっても、断りの言葉が案内の言葉に変わることでスタッフの負担が下がります。対立ではなく動線の設計として考えるのが、現実的な落としどころだと考えられます。
掲示をつくるときのポイント
- 禁止事項と、代わりの行き先をセットで書く。行き先がないまま禁止だけを書かない
- 対象範囲を具体的に書く(入口前・軒先・駐車場など)。曖昧だと解釈の幅が生まれます
- 強い言葉や責める表現を避ける。掲示は不特定多数が読むもので、店の印象にも直結します
- 外国語の併記を検討する。訪日客が多い立地では、日本語だけでは伝わらないことがあります
- 20 歳未満の立入禁止など、法令上の決まりは事実として簡潔に書く
- 掲示が汚れたり色あせたりしていないか、定期的に確認する
文面をつくるときは、「読んだ人がその場で何をすればよいか分かるか」を基準にすると、内容が整理しやすくなります。
スタッフの対応をそろえる
- 声のかけ方を一つの型に決めておく。「恐れ入ります、こちらは禁煙となっております。喫煙所は〇〇にございます」など、案内を含む形にする
- 案内先の場所を全員が把握しておく。人によって案内が違うと、店の方針が伝わりません
- 相手が納得しない場合に、どこまで対応してどこで引くかを決めておく。無理に押し問答をしない
- 近隣から苦情を受けたときの記録の残し方(日時・状況・対応)を共有しておく
- 常連のお客様が対象になる場合もあるため、関係を壊さない言い方を事前に相談しておく
一店舗で抱え込まず、近隣と組む
店先での喫煙は、一店舗だけの問題として解決しにくい面があります。隣の店の前に移動しただけでは、通り全体としては何も変わりません。商店会や近隣の事業者と、掲示の内容や案内先をそろえるだけでも、通り単位での動線が整理されやすくなります。
また、地域に指定喫煙所が足りていないと感じる場合には、自治体の意見箱や相談窓口を通じて要望を出すという方法もあります。撤去を求めるだけでなく、適切な場所への設置を求める声も、同じ制度の中で扱われます。分煙の環境をどう設計するかは地域の課題であり、店舗単独で解決するより、行政や近隣と共有したほうが現実的な場面が多くあります。
案内先を用意する:喫煙所マップの使い方
案内という打ち手をとるには、まず自店の周辺に指定された喫煙場所があるかを把握する必要があります。モットスイタイの喫煙所マップ で店舗の周辺を確認し、最寄りの喫煙所と、そこまでの徒歩の目安を把握しておくと、掲示やスタッフの案内に具体的な地名を入れられます。地図のページを二次元コードにして掲示物に添える、案内カードに書いておくといった方法も考えられます。喫煙する側から見た制度の解説は 日本の喫煙所事情とマナー、基本的な配慮は 喫煙マナーの基本 にまとめています。案内する側が制度を把握しておくと、説明が一段やわらかくなります。
屋内の運用も合わせて見直す
店先の対応を考えるタイミングは、屋内の掲示や運用を点検する機会でもあります。標識の種類・掲示場所・入手先と、違反時の過料の考え方は 飲食店の喫煙標識 掲示義務ガイド、お客様側の視点は 全席禁煙の店の探し方 と 禁煙の店で喫煙されていたときの対処、自治体ごとの路上喫煙のルールは 自治体別の路上喫煙と過料 にまとめています。
おわりに:排除ではなく、分煙の設計として
店先での喫煙をめぐる問題は、誰かを悪者にしても解決しません。喫煙する人には配慮義務があり、場所を定める側にも配慮義務があります。どちらの側にも守るべき枠があるという前提に立てば、店舗が取りうる打ち手は「禁止を強めること」だけではなく、「行き先を示すこと」にも広がります。掲示・スタッフの案内・近隣との連携・自治体への相談を組み合わせ、通り全体として無理のない動線をつくることが、結果として店の環境を守ることにつながると考えられます。
店先での喫煙に「案内」で対応する 5 ステップ
現状の把握から掲示・スタッフ対応・近隣連携までを、対立を避けながら進める手順。
- 1
ステップ 1
発生している状況を記録する
時間帯・場所・人数・煙がどこへ流れているかを一週間ほど記録します。入口前なのか駐車場なのか、開店前なのか閉店後なのかで、打ち手が変わります。
- 2
ステップ 2
自治体のルールと相談窓口を確認する
所在地が路上喫煙に関する条例の対象区域に含まれるかを確認します。自治体によっては受動喫煙や路上喫煙の相談窓口を設けているため、判断に迷う点は先に相談します。
- 3
ステップ 3
案内先になる喫煙所を把握する
周辺の指定された喫煙場所と、そこまでの徒歩の目安を確認します。案内先が具体的であるほど、掲示やスタッフの声かけが機能しやすくなります。
- 4
ステップ 4
禁止と案内をセットにした掲示をつくる
対象範囲を具体的に書き、代わりの行き先を併記します。責める表現は避け、必要に応じて外国語も併記します。掲示の劣化は定期的に確認します。
- 5
ステップ 5
スタッフの対応をそろえ、近隣と共有する
声のかけ方と案内先を全員で統一し、押し問答にならない引き際も決めておきます。商店会や近隣の事業者と掲示内容をそろえると、通り単位で動線が整理されやすくなります。
よくある質問
Q.店の前で吸われるのを、法律で禁止できますか?
A.荒川区の案内によると、屋外・私有地での喫煙は禁煙特定区域を除き規制の対象外である一方、望まない受動喫煙を生じさせることのないよう配慮することが義務とされています(出典: https://www.city.arakawa.tokyo.jp/a033/kenkouiryou/kenkouzukuri/haryogimu.html)。路上喫煙については自治体ごとに条例があり、扱いが異なります。個別の状況については、所在地の自治体の窓口にご相談ください。
Q.店先の灰皿は撤去したほうがよいですか?
A.一律の正解はありません。荒川区の案内では、施設等の管理者が灰皿を設置するなど喫煙場所をつくるときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならないと説明されています(出典: 同上)。入口・窓・隣接する席との位置関係、近隣の指定喫煙所の有無、自治体の区域指定を踏まえて判断し、迷う場合は自治体の窓口にご相談ください。
Q.掲示にはどう書けばよいですか?
A.禁止する範囲を具体的に書いたうえで、代わりの行き先を併記する形が現実的です。「当店の前は禁煙です。喫煙をご希望の方は〇〇の喫煙所をご利用ください」のように、読んだ人がその場で取るべき行動が分かる文面にすると、案内としても機能します。責める表現は、不特定多数が読む掲示には向きません。
Q.近くに喫煙所がない場合はどうすればよいですか?
A.案内先がない状態では、掲示だけで動線を変えるのは難しくなります。商店会や近隣事業者と対応をそろえる、自治体の意見箱や相談窓口を通じて分煙環境について要望を出すといった方法があります。自治体によっては受動喫煙や路上喫煙の相談窓口を設けています(例: 世田谷区受動喫煙相談コールセンター https://www.city.setagaya.lg.jp/01101/4803.html)。
Q.屋内に喫煙室を設ければ解決しますか?
A.設置には要件があります。喫煙可能室は 2020 年 4 月 1 日時点で現に存する店舗・資本金または出資の総額 5,000 万円以下・客席面積 100 平方メートル以下という要件を満たす場合の経過措置で、自治体によってはさらに条件が加わります。喫煙できる場所を設ける施設には標識の掲示義務があります(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/ ・ https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/business/restaurant/)。設置の可否は所在地の自治体・保健所にご確認ください。
