管理会社・管理組合のための喫煙マナー対応実務【2026】掲示文の考え方と段階的な対応フロー
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、e-Gov 法令検索の健康増進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)および建物の区分所有等に関する法律(https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069)、国土交通省「マンション標準管理規約」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html)、厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)を一次情報源として、2026 年 8 月 18 日時点で確認できた内容を管理実務の目線で整理したものです。個別の規約・使用細則の効力や、特定の行為が違法かどうかについて判断を示すものではなく、法的な助言でもありません。実際の対応は管理規約の原本を確認のうえ、マンション管理士・弁護士等の専門家や自治体の相談窓口にご相談ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
まず押さえる:管理側が扱っているのは「関係」でもある
たばこのにおいに関する申し出は、「煙を止めてほしい」という要望と、「自分の生活が軽んじられている気がする」という感情が重なって届くことが少なくありません。一方で、申し出の対象になった側にも「規約に書かれていない範囲で自宅の使い方を制限された」という受け止めが生じます。どちらも自分の住まいで普通に暮らしているつもりでいる、という点は共通しています。そのため管理側の初動は、どちらが正しいかを判定しに行くより、事実を整理して双方が納得しやすい仕組みに落とし込む方向に進めるほうが扱いやすくなります。掲示や通知の文面は、その仕組みが最初に外に出る場所です。ここで書きぶりを誤ると、以後の話し合いが一気に難しくなります。
法令面で押さえておきたい 2 つの条文
喫煙まわりの管理実務で参照されることが多いのは、健康増進法の配慮義務です。第 27 条第 1 項は「何人も、特定施設及び旅客運送事業自動車等の第二十九条第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」と定めています。条文が対象にしているのは「喫煙禁止場所以外の場所」での喫煙であり、屋内の喫煙禁止場所に限った定めではありません(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。
もう一つは同条第 2 項です。「特定施設等の管理権原者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない」と定められています。管理組合が敷地内に喫煙できる場所を設けることを検討する場合、この規定が判断の土台になります。掲示や周知の文面でこれらに触れるときは、条文の文言をそのまま引くのが安全です。要約すると、意図せず断定的な表現になりがちです。
段階的な対応フロー:どこで止めて、どこから外部に出すか
申し出を受けてから解決までの流れは、次のように段階を分けておくと、管理側の判断がぶれにくくなります。各段階で「まだやらないこと」を決めておくのが要点です。
- 【第 1 段階】受け付けと記録:いつ・どのあたりで・どのような状況だったかを、申し出た方の言葉のまま記録します。この時点では発生源の特定を目的にせず、個人名を記録に残す必要があるかを慎重に判断します
- 【第 2 段階】規約・使用細則の確認:バルコニーの使用方法、共用部分での喫煙、専有部分の使用に関する条項に何が書かれているかを確認します。「書かれていない」ことも重要な事実です
- 【第 3 段階】一般的な周知:個人を特定しない形で、全戸に向けて配慮のお願いを掲示・配布します。ここで「代わりに使える場所」の情報を必ずセットにします
- 【第 4 段階】理事会での協議:周知後も申し出が続く場合、理事会で状況を共有し、対応方針を決めます。使用細則の見直しが論点になる場合は、手続きの要件を専門家に確認します
- 【第 5 段階】窓口の一本化:当事者同士が直接やり取りする形にせず、管理会社・管理組合を窓口にします。直接注意を促す運用は、トラブルを大きくする方向に働くことがあります
- 【第 6 段階】外部の窓口へ:話し合いで解決しない場合は、マンション管理士・弁護士等の専門家や、自治体の住宅相談・生活相談の窓口を案内します。管理側が法的な結論を示すことは避けます
第 1 段階からいきなり戸別訪問に進むと、以後どの段階に戻ることも難しくなります。
掲示文の考え方:入れるもの、入れないもの
掲示は不特定多数が読みます。申し出をした方、対象になったかもしれないと感じる方、まったく無関係な方——この 3 者すべてが読んでも角が立たない文面にすることが、掲示文の設計目標になります。
- 入れる:申し出があったという事実(「〜という趣旨のご意見をいただきました」)
- 入れる:健康増進法第 27 条第 1 項の配慮義務に触れる場合は、条文の文言をそのまま引用する
- 入れる:管理規約・使用細則に該当条項がある場合は、その条項番号と文言
- 入れる:代わりに使える場所の情報(最寄りの指定喫煙所の位置を確認できる案内)
- 入れる:問い合わせ・相談の窓口(管理会社の連絡先、理事会への意見の出し方)
- 入れない:号室・階数・時間帯など、個人が特定できてしまう情報
- 入れない:「監視しています」「発見した場合は」等、取り締まりや監視を示唆する表現
- 入れない:「違法です」「損害賠償の対象になります」等、法的な結論の断定
- 入れない:喫煙する居住者を一括りにして非難する表現、逆に申し出た側を過敏と扱う表現
文面の骨格としては、「①ご意見をいただいた旨 → ②配慮のお願い(条文の引用は最小限に) → ③代わりに使える場所の案内 → ④ご意見・ご相談の窓口」という 4 段構成が扱いやすい形です。冒頭を「〜されている方へ」ではなく「居住者のみなさまへ」で始めるだけでも、受け取られ方は変わります。
③の「代わりに使える場所」は、掲示の実効性を大きく左右します。最寄りの指定喫煙所の位置は モットスイタイの喫煙所マップ で確認でき、掲示に QR コードを添えておけば、その場でスマートフォンから見てもらえます。あわせて、共用部分でのマナーを説明したい場合は 喫煙マナーの基本 の内容が参考になります。屋外の路上での喫煙については自治体ごとに条例の内容が異なるため、自治体別の路上喫煙と過料の解説 を確認したうえで、必ずお住まいの自治体の公式情報で最新の区域と扱いをご確認ください。
規約・使用細則の見直しを検討するとき
周知で収まらず、ルールとして明文化する方向を検討することがあります。区分所有法第 31 条第 1 項は、規約の設定・変更・廃止を集会の決議によって行うこととし、それが一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないと定めています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069)。決議に必要な要件は法改正によって変わることがあるため、実際に手続きを進める前に、最新の条文とあわせてマンション管理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
文案づくりの出発点としては、国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」が使えます。単棟型・団地型・複合用途型の 3 種類があり、それぞれに条文の趣旨を説明したコメントが付されています(最終改正 令和 7 年 10 月 17 日・出典: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html)。
なお、ルールを厳しくすることと居住者が困らないようにすることは対立しません。使用細則の検討と同時に「では、どこでなら吸えるのか」を整理しておくと、改定案への反対意見が減る方向に働きます。
敷地内に喫煙場所を設けるかどうかの論点
敷地内に灰皿や喫煙スペースを設けるかどうかは、管理組合ごとに判断が分かれるテーマです。設ける場合は、位置(住戸の窓・バルコニー・出入口・遊具などからの距離)、清掃と吸い殻の処理の担当、20 歳未満の立入りに関する掲示、夜間の利用の扱いなど、決めておく項目が複数あります。屋外の喫煙場所を検討するときの考え方は 施設の屋外喫煙所をどこに作るか に整理しました。改正健康増進法では、20 歳未満の人は喫煙を目的としない場合であっても喫煙エリアへ一切立入禁止とされており、標識に関するルールも定められています(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)。制度全体の整理は 改正健康増進法の解説記事 をご覧ください。
設けないという判断も当然あります。その場合に重要なのは、「敷地内では吸えない」で終わらせず、敷地外の公設・民間の喫煙所の情報を案内に含めることです。行き先が示されないと、出入口付近や近隣の路上に滞留が生じ、近隣からの申し出という形で管理側に戻ってきます。
管理会社と管理組合の役割分担
実務では、管理会社が窓口として受け付け、記録し、掲示の案文を作り、理事会に諮る流れが一般的です。注意したいのは、担当者が個別の法的判断を求められる場面が生じやすい点です。「これは違法ですよね」と問われたとき、その場で結論を返すのではなく、事実の整理と選択肢の提示にとどめ、判断が必要な部分は理事会と専門家に渡すのが、後々のトラブルを避けやすい形になります。また、申し出をした方に「対応が進んでいること」を定期的に伝えるだけでも受け止めは変わります。進捗が見えないと当事者間の直接のやり取りに発展しやすいため、管理側が窓口であり続けることが摩擦の少ない着地につながります。
おわりに:ルールと「行き先」をセットで用意する
喫煙まわりの管理実務でうまくいっている事例に共通しているのは、禁止の強さではなく、情報の丁寧さです。「ここでは配慮をお願いします」と「代わりにここが使えます」を必ず対で出す。個人を特定しない。判断が必要な部分は専門家に渡す。この 3 つを守るだけで、対応の負荷はかなり下がります。近隣の喫煙所は モットスイタイの喫煙所マップ で確認できます。自治体に対して喫煙環境そのものの改善を求めたい場合の進め方は 近所の喫煙環境への要望はどう出すか にまとめました。個別の事案については、マンション管理士・弁護士等の専門家や自治体の相談窓口にご相談ください。
マンションで喫煙に関する申し出を受けたときの 5 ステップ
受け付けから掲示、理事会での協議、専門家への引き継ぎまで、管理会社・管理組合が着手しやすい順序で整理した手順。
- 1
ステップ 1
申し出の内容を記録として整える
いつ・どのあたりで・どのような状況だったかを、申し出た方の言葉のまま記録します。この段階では発生源の特定を目的とせず、個人名を記録に残す必要があるかを慎重に判断します。
- 2
ステップ 2
管理規約・使用細則を確認する
バルコニーの使用方法、共用部分の使用、専有部分の使用に関する条項を確認します。該当条項がない場合も、それ自体が対応方針を決めるうえで重要な事実になります。
- 3
ステップ 3
個人を特定しない掲示を出す
「居住者のみなさまへ」で始め、ご意見があった旨・配慮のお願い・代わりに使える喫煙所の案内・相談窓口の 4 点を書きます。号室や時間帯など個人が特定できる情報、監視を示唆する表現、法的な断定は入れません。
- 4
ステップ 4
理事会で状況を共有し方針を決める
掲示後も申し出が続く場合は、記録を整理して理事会に諮ります。使用細則の見直しを検討する場合は、手続きの要件と文案の妥当性をマンション管理士・弁護士等の専門家に確認します。
- 5
ステップ 5
窓口を一本化し、必要なら外部へつなぐ
当事者同士の直接のやり取りにせず、管理会社・管理組合が窓口であり続けます。話し合いで解決しない場合は、専門家や自治体の住宅相談・生活相談の窓口を案内し、管理側が法的な結論を示すことは避けます。
よくある質問
Q.バルコニーでの喫煙について申し出がありました。まず何をすべきですか?
A.いきなり発生源を特定しに行くより、申し出の内容を記録として整え、管理規約・使用細則に該当条項があるかを確認するのが先です。そのうえで、個人を名指ししない形で全戸に向けた配慮のお願いを掲示し、あわせて近隣で利用できる喫煙所の情報を添えるのが、実務で扱いやすい順序です。個別の事案の法的な評価は、マンション管理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
Q.掲示文に「違法です」と書いてもよいですか?
A.法的な結論の断定は避けるのが無難です。健康増進法第 27 条第 1 項は「何人も、…喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」と定めており(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)、掲示ではこの文言をそのまま引用して配慮をお願いする形が扱いやすくなります。個別の行為が違法かどうかの判断は専門家の領域です。
Q.管理規約で喫煙を制限することはできますか?
A.区分所有法第 31 条第 1 項は、規約の設定・変更・廃止を集会の決議によって行うこととし、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときはその承諾を得なければならないと定めています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069)。決議に必要な要件は法改正で変わることがあるため、最新の条文を確認のうえ、マンション管理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
Q.掲示に喫煙所の案内を入れるのは、喫煙を推奨することになりませんか?
A.「配慮のお願い」と「代わりに使える場所の案内」は目的が異なります。行き先が示されないと、敷地の出入口付近や近隣の路上に滞留が生じ、別の申し出につながることがあります。健康増進法第 27 条第 2 項は、管理権原者が喫煙できる場所を定めようとするときの配慮義務を定めており、場所の設計は管理側が扱うべき論点として位置づけられています。
Q.居住者同士で直接話し合ってもらうのは避けたほうがよいですか?
A.管理会社・管理組合を窓口にしたほうが、双方の言い分が記録として整い、感情的な行き違いが起きにくくなります。掲示や案内で個人による注意や監視を促す表現を使うと、トラブルが大きくなる方向に働くことがあります。解決しない場合は、専門家や自治体の相談窓口を案内するのが現実的です。
