職場のタバコのにおい問題【2026】角を立てずに解決するための考え方と進め方
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(令和元年 7 月 1 日基発 0701 第 1 号 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)、同「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/)、および健康増進法 27 条の配慮義務に関する自治体の解説(荒川区 https://www.city.arakawa.tokyo.jp/a033/kenkouiryou/kenkouzukuri/haryogimu.html)を一次情報源として、2026 年 8 月時点の内容を第三者の立場で整理したものです。特定の個人・企業の行為を評価するものではなく、個別の事案について法的な結論やハラスメント該当性の判断を示すものでもありません。消臭剤や空気清浄機など特定の商品の効果について述べるものでもありません。判断に迷う場合は、社内の人事・衛生管理の担当部署や、後述の公的な相談窓口にご相談ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
なぜ「におい」の話はこじれやすいのか
においの感じ方には個人差があり、同じ場所にいても気になる人と気にならない人が分かれます。数値で示しにくいため「気のせいではないか」という反論が起きやすく、指摘する側も「神経質だと思われないか」と切り出しにくい。しかも対象が特定の同僚になりがちで、伝え方を誤ると相手の人格を否定したように受け取られてしまいます。
一方、喫煙する側からすれば、法律で決められた喫煙室や指定された場所で吸っているだけであり、そこを否定されると行き場がなくなります。どちらも悪意がないのにすれ違うのがこのテーマの難しさです。だからこそ、話を「誰が悪いか」ではなく「どこをどう変えるか」に置き換えるのが、結果的に双方にとって早道になります。
まず確認:職場の喫煙環境がどうなっているか
改正健康増進法は 2020 年 4 月 1 日に全面施行され、一般の事務所や工場などの第二種施設は屋内が原則禁煙になりました。屋内で喫煙できるのは、要件を満たして設けられた喫煙専用室(喫煙のみ可・飲食不可)や指定たばこ専用喫煙室(加熱式たばこのみ可・飲食可)などに限られます。学校・病院・児童福祉施設・行政機関の庁舎などの第一種施設は原則として敷地内禁煙です。喫煙できる設備がある施設には標識の掲示が義務づけられており、喫煙エリアには従業員であっても 20 歳未満は立ち入れません(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/)。
この前提を共有しておくと、話が具体的になります。自社が「屋内に喫煙専用室がある」のか「指定たばこ専用喫煙室がある」のか「屋内禁煙で屋外の喫煙場所を使っている」のか「敷地内禁煙で近隣の指定喫煙所を使っている」のかで、打てる手はまったく変わるからです。
ガイドラインが挙げている「環境側の工夫」
厚生労働省のガイドラインは、20 歳以上の労働者に対する配慮として、事業場の実情に応じて次のような事項に配慮することを挙げています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。個人へのお願いではなく、会社として整えられる要素としてまとまっている点が実務上ありがたいところです。
- 勤務シフト、勤務フロア、動線等の工夫。望まない受動喫煙を防止するため、勤務シフトや業務分担を工夫すること
- 受動喫煙を望まない労働者が喫煙区域に立ち入る必要のないよう、禁煙フロアと喫煙フロアを分けること
- 喫煙区域を通らないような動線の工夫等について配慮すること
- 喫煙専用室等の清掃作業は、室内に喫煙者がいない状態で、換気により室内のたばこの煙を排出した後に行うこと
- 営業や配達等の業務で使用する車両内などでも、喫煙者に対し、同乗者の意向に配慮するよう周知すること
同ガイドラインは、指定たばこ専用喫煙室や喫煙可能室について、受動喫煙を望まない者がその室内で業務や飲食を避けることができるよう配慮すること、とも述べています。「そこで働かざるを得ない状態」を作らない、という考え方です。においの相談が出たときも、まずこの視点で自社の運用を見直すと、個人の話にせずに改善できる余地が見つかることがあります。
喫煙する側ができる配慮
法律や社内ルールを守っていても、戻ってきた直後の会議や近距離での打合せでにおいが話題になることはあります。次のような工夫は、実行の負担が小さいわりに摩擦を減らしやすい部分です。
- 会議・来客対応・面談の直前は避け、終わってからにまとめる。予定表を見て順番を入れ替えるだけで防げることが多くあります
- 喫煙室を出るときは、扉付近で立ち止まらずに離れる。出入口付近は煙が滞留しやすい場所です
- 上着を喫煙室に持ち込まない、席に戻る前に手を洗う、といった動作を習慣にしておく
- 狭い会議室や車内など、距離の近い場面では相手の様子を見て席の位置を調整する
- 同乗者がいる業務車両では、ガイドラインが同乗者の意向への配慮を求めている点を踏まえ、事前にひと声かける
- 健康増進法は、喫煙をする際に望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況へ配慮することを義務としています。屋外や私有地での喫煙にも及ぶ考え方です
気になる側の伝え方:主語を「人」から「場面」へ
伝え方の勘所は、主語を人から場面に移すことです。「◯◯さんが臭う」は相手の属性への評価になりますが、「この打合せスペースは換気が弱いので、別室にできませんか」は環境の要望になります。後者は相手を責めずに済み、しかも会社として対応できる形になっています。
- 個人ではなく場所・時間帯・座席配置など、変えられる要素を名指しする
- 「臭い」という感想ではなく、「換気のよい部屋に変えたい」「席を離したい」という行動の提案にする
- 一度で解決しようとせず、まずは打合せの場所や順番など、小さく変えられるところから相談する
- 個人間で言いにくい場合は、衛生委員会等や受動喫煙防止対策の担当部署など、会社の仕組みの側に出す
- 相手の喫煙そのものを否定する言い方は避ける。目的は環境の調整であって、相手の習慣を変えさせることではありません
会話の切り出し方や日常的な距離の取り方については 喫煙者と非喫煙者が気持ちよく働くための配慮 に詳しくまとめています。屋内に喫煙室がなく外に出る運用の職場では、最寄りの指定喫煙所を モットスイタイの喫煙所マップ で共有しておくと、「建物の出入口付近で吸われて困る」という別のトラブルを避けやすくなります。
管理職・総務が仕組みで整えられること
ガイドラインは、事業者が衛生委員会、安全衛生委員会等の場を通じて労働者の受動喫煙防止対策についての意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握した上で適切な措置を決定すること、としています。また、企業全体または事業場の規模等に応じて受動喫煙防止対策の担当部署や担当者を指定し、受動喫煙防止対策に係る相談対応等を実施させること、受動喫煙防止対策の状況を衛生委員会等における調査審議事項とすること、産業医の職場巡視に当たり実施状況に留意することも挙げられています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
においの相談が個人間の揉め事として持ち込まれたときに、担当部署と検討の場が決まっていれば、そこへ載せ替えるだけで話の性質が変わります。逆に受け皿がないと、上司の裁量頼みになり、対応の当たり外れが大きくなります。相談の受け皿を先に作っておくこと自体が、におい問題への最も効く備えだといえます。
特に配慮が求められる人がいる場合
ガイドラインは、妊娠している労働者、呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療しながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者など、受動喫煙による健康への影響を一層受けやすい懸念がある者に対して、特に配慮を行うこととしています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。該当する人が席替えや動線の変更を申し出た場合は、個人の好みの問題ではなく、ガイドラインが名指しで挙げている配慮の対象だと整理できます。
なお、健康上の事情は機微な情報です。本人が望まない形で共有されないよう、誰にどこまで伝えるかは本人の意向を確認したうえで進めてください。健康状態に関する具体的なご相談は医療機関にお願いします。
それでも改善しないときの進め方
社内で相談しても状況が変わらない場合は、外部の窓口を使う方法があります。厚生労働省によれば、都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などに設置されている「総合労働相談コーナー」は、いじめ・嫌がらせ、パワハラを含むあらゆる分野の労働問題を対象としており、予約不要・無料で、全国 378 か所に設置され、相談者のプライバシーの保護に配慮した対応を行うとされています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html)。
受動喫煙そのものに関する相談先や、社内での動き方をもう少し詳しく知りたい場合は 職場の受動喫煙はどこに相談するか にまとめています。会社として喫煙室の設置や改修を検討する段階であれば、中小企業事業主向けの 受動喫煙防止対策助成金のまとめ もご覧ください。
おわりに:勝ち負けにしないための設計
においの話は、放置しても解決せず、正面からぶつけると人間関係を損ないます。ガイドラインが挙げる動線・フロア・清掃の運用といった「環境側の変数」に翻訳できたときだけ、静かに前へ進みます。喫煙する人にとっても、吸える場所と時間が明確になるほうが動きやすくなるはずです。休憩の扱いについては タバコ休憩と公平性の整理、在宅勤務との組み合わせについては 在宅勤務と喫煙の記事 もあわせてご覧ください。
職場のにおい問題を角を立てずに進める 5 ステップ
個人を名指しせずに環境側の変数へ翻訳し、社内の仕組みに載せるまでの順序。制度上の根拠を添えて相談する形で組み立てています。
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ステップ 1
自社の喫煙環境の型を確認する
屋内に喫煙専用室があるのか、指定たばこ専用喫煙室なのか、屋内禁煙で屋外の場所を使うのか、敷地内禁煙なのかを確認します。型が違えば打てる手も変わるため、ここが出発点になります。
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ステップ 2
困っている場面を具体的に書き出す
「いつ・どこで・どんな場面で」気になるのかを記録します。会議直前の打合せ、喫煙室に近い座席、換気の弱い会議室など、変えられる要素の形にしておくと相談が進めやすくなります。
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ステップ 3
環境の要望として言い換える
「臭い」という感想ではなく、「打合せは換気のよい部屋にしたい」「座席の配置を見直したい」「動線を変えられないか」という提案に置き換えます。相手の人格ではなく場面を主語にします。
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ステップ 4
社内の仕組みに載せる
受動喫煙防止対策の担当部署や衛生委員会等に相談します。ガイドラインは労働者が衛生委員会等の代表者を通じる等により必要な対策について積極的に意見を述べることが望ましいとしています。
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ステップ 5
変わらなければ外部の窓口を使う
都道府県労働局や労働基準監督署内などにある総合労働相談コーナーは、予約不要・無料であらゆる分野の労働問題を受け付けています。個別の法的な見通しが必要な場合は弁護士にご相談ください。
よくある質問
Q.同僚のタバコのにおいが気になります。本人に直接言うべきですか?
A.本人に伝えるかどうかは状況によりますが、伝えるとしても主語を人ではなく場面に置くほうが摩擦が小さくなります。「臭い」という感想ではなく、「この打合せスペースは換気が弱いので別室にできませんか」「座席の配置を見直したい」といった環境の要望として出す方法です。個人間で言いにくい場合は、衛生委員会等や受動喫煙防止対策の担当部署に相談する選択肢もあります。
Q.会社ににおい対策を求めることはできますか?
A.厚生労働省のガイドラインは、事業者が配慮する事項として、勤務シフトや業務分担の工夫、禁煙フロアと喫煙フロアを分けること、喫煙区域を通らないような動線の工夫を挙げています(出典: https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。また労働者は衛生委員会等の代表者を通じる等により必要な対策について積極的に意見を述べることが望ましいとされています。制度上の位置づけを示したうえで相談するのが現実的です。
Q.喫煙室の掃除を任されるのですが、注意点はありますか?
A.ガイドラインは、喫煙専用室等の清掃作業は室内に喫煙者がいない状態で、換気により室内のたばこの煙を排出した後に行うこととしています。やむを得ず室内のたばこの煙の濃度が高い状態で作業する場合は、呼吸用保護具の着用等により有害物質の吸入を防ぐ対策をとることとされています。また 20 歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務(清掃作業を含む)を行わせないこととされています(出典: https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。
Q.妊娠中や持病がある場合、席や動線を変えてもらえますか?
A.ガイドラインは、妊娠している労働者、呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療しながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者など、受動喫煙による健康への影響を一層受けやすい懸念がある者に対して特に配慮を行うこととしています(出典: https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf)。健康状態そのもののご相談は医療機関へ、職場の措置については人事・衛生管理の担当部署へお願いします。
Q.社内で相談しても変わらない場合、どこに相談できますか?
A.都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などにある「総合労働相談コーナー」が、いじめ・嫌がらせやパワハラを含むあらゆる分野の労働問題を対象としています。予約不要・無料で、全国 378 か所に設置され、相談者のプライバシーの保護に配慮した対応を行うとされています(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html)。
