民泊・小規模宿の禁煙運用【2026】ハウスルール・原状回復・ゲストへの喫煙所案内
目次
はじめに:本記事の前提と免責
本記事は、e-Gov 法令検索の健康増進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)および住宅宿泊事業法(https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065)、観光庁の民泊制度ポータルサイト「minpaku」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/)、厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html)を一次情報源として、2026 年 8 月 18 日時点で確認できた内容を宿の運営者目線で整理したものです。個別の物件の制度上の位置づけや、ハウスルール・特約が個別の契約でどこまで効力を持つかについて判断を示すものではなく、法的な助言でもありません。届出・許可の要否は所管の自治体(保健所等)に、約款や請求の可否は弁護士等の専門家にご確認ください。本記事は喫煙を推奨するものではありません。
前提整理:客室の喫煙可否を決めているのは何か
受動喫煙対策の枠組みを定めた改正健康増進法は 2020 年 4 月 1 日に全面施行され、多数の利用者がいる施設は原則屋内禁煙となりました(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)。ただし同法第 40 条第 1 項は、この節の規定を適用しない場所として、第 1 号に「人の居住の用に供する場所(次号に掲げる場所を除く。)」、第 2 号に「旅館業法第二条第一項に規定する旅館業の施設の客室の場所(同条第三項に規定する簡易宿所営業の施設及び同条第四項に規定する下宿営業の施設の客室(個室を除く。)の場所を除く。)」を掲げています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。
つまり客室の中の扱いは、法律による一律の屋内禁煙とは別の枠組みで整理されており、実務上は施設側が方針を決めて予約前に明示できているかが争点になります。なお同条第 2 項は、特定施設等の場所の中に第 1 項各号に該当する場所がある場合、その場所については節の規定を適用しないと定めています。客室が適用除外にあたる場合でも、ロビー・廊下などの共用部分まで自動的に同じ扱いになるとは限らないため、各スペースの整理は所管の保健所・自治体窓口にご確認ください。
民泊(住宅宿泊事業)の運営者に求められている実務義務
住宅宿泊事業法に基づいて届出住宅を運営する場合、たばこに直接関係する条文はありませんが、喫煙まわりの運用に効いてくる義務がいくつかあります。条文の要旨は次のとおりです(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065)。
- 第 2 条第 3 項:住宅宿泊事業は、人を宿泊させる日数が「一年間で百八十日を超えないもの」と定義されています
- 第 5 条(宿泊者の衛生の確保):各居室の床面積に応じた宿泊者数の制限、定期的な清掃その他の宿泊者の衛生の確保を図るために必要な措置を講じなければならないとされています
- 第 9 条(周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明):宿泊者に対し、「騒音の防止のために配慮すべき事項その他の届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項」について説明しなければならないとされています。においや煙をめぐる近隣配慮の案内は、この説明に自然に含められる項目です
- 第 10 条(苦情等への対応):届出住宅の周辺地域の住民からの「苦情及び問合せについては、適切かつ迅速にこれに対応」しなければならないとされています
- 第 13 条(標識の掲示):届出住宅ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令・厚生労働省令で定める様式の標識を掲げなければならないとされています
制度の全体像と自治体ごとの窓口・上乗せ条例の有無は、観光庁の民泊制度ポータルサイト「minpaku」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/)に集約されています。地域によっては条例で営業日数や区域が制限されているため、喫煙ルール以前に、まず自分の物件がどの枠組みで運営できるのかを確認しておきます。
ハウスルールは「禁止」より「代わりの場所」まで書く
喫煙まわりのトラブルは、ゲストがルールを軽視して起きるケースばかりではありません。「禁煙とは書いてあったが、では建物のどこでなら吸えるのか分からなかった」という情報不足から、入口前やバルコニーで吸われてしまう流れもあります。運営側から見ると、ここは自分でコントロールできる部分です。
- 禁煙の範囲を具体的に書く(居室内・バルコニー/ベランダ・共用廊下・玄関前など、どこまでが禁煙か)
- 対象を具体的に書く(紙巻きたばこだけでなく、加熱式たばこ・電子たばこ・葉巻・パイプを含むかどうか)
- 吸い殻の持ち込み・室内での灰皿代用(ゴミ箱・コップ等)の扱いを明記する
- 違反が確認された場合にどのような費用が発生しうるかを、算定の考え方とあわせて事前に示す
- 「代わりにどこで吸えるか」を必ずセットで書く(最寄りの公設・民間の指定喫煙所までの徒歩時間、周辺自治体に路上喫煙の制限があるかどうか)
- 掲載する言語をゲスト層に合わせる(英語・中国語簡体/繁体・韓国語などの併記)
「代わりの場所」を書くとき、地図のリンクや QR コードを併記しておくと、チェックイン後に迷わせずに済みます。周辺の指定喫煙所は モットスイタイの喫煙所マップ で位置を確認できます。ゲスト側が同じテーマをどう読んでいるかは Airbnb・民泊での喫煙ルール(宿泊者向け) にまとめてあります。ハウスルールの文面を作るとき、ゲスト側の記事と食い違いがないかを確認しておくと、期待値のずれが減ります。
バルコニー・共用部分・加熱式タバコをどう扱うか
集合住宅の一室を届出住宅として運用している場合、居室の中だけを禁煙にしても、バルコニーで吸われれば上下階・隣戸から苦情が来ます。バルコニー・専用庭・共用廊下・エントランス前を禁煙の範囲に含めるかどうかは、物件の管理規約や賃貸借契約の内容と整合させたうえで、ハウスルールに書き切っておくのが実務的です。
加熱式たばこ・電子たばこの扱いも、書いていなければ「紙巻きでなければ大丈夫だろう」と受け取られる余地が残ります。実際、宿泊業では対象を明示している例があります。京急 EX インは公式のお知らせで「禁煙ルーム内での喫煙(電子・加熱式タバコ含む)および吸い殻の持ち込みを固くお断りしております」と明記しています(2025 年 3 月 11 日掲載・出典: https://www.keikyu-exinn.co.jp/contents/info/detail/?id=1074)。ホテル日航関西空港も英語の案内で、喫煙には電子たばこを含む旨を注記しています(出典: https://www.nikkokix.com/en/news/8003)。どの製品まで含むのかを一行足しておくだけで、後の押し問答をかなり減らせます。
原状回復と費用請求:公式に金額を示している宿の実例
「いくら請求できるか」は、宿泊契約の内容・実際に生じた損害・事前の告知の有無によって変わるため、一般的な相場を示すことはできません。ここでは、金額を公式に開示している 2 件だけを事実として挙げます。
- 京急 EX イン/京急 EX ホテル:「禁煙ルーム内での喫煙行為、または吸い殻が確認された場合は、部屋の売止補償及び特別清掃費として 3 万円を請求させていただきます」(2025 年 3 月 11 日掲載・出典: https://www.keikyu-exinn.co.jp/contents/info/detail/?id=1074)
- ホテル日航関西空港:客室内での喫煙または吸い殻が確認された場合、清掃および客室の損害賠償として合計 50,000 円を請求する旨を英語で案内(出典: https://www.nikkokix.com/en/news/8003)
- 上記はいずれも各社が自ら金額を公開している例です。金額を規約に書いていない施設もあり、その場合は実費や約款に基づいて算定されることになります
- 本記事では、公式に確認できたこの 2 件以外の金額は記載していません。「相場」は施設の規模・客室単価・消臭処理の内容によって大きく変わります
注目したいのは、京急 EX インが請求項目を「部屋の売止補償及び特別清掃費」という 2 本立てで説明している点です。においが残ると消臭処理の間はその部屋を販売できないため、清掃費だけでなく販売機会の損失が発生します。この構造をゲストに伝わる言葉で先に書いておくと、請求時の納得感が変わります。
なお、自分自身が物件を借りて運営している場合は、貸主との間の原状回復も別途論点になります。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、別表で「タバコのヤニ、臭い(喫煙等によりクロス等が変色したり、臭いが付着している場合)」を挙げ、「喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、居室全体のクリーニング又は張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる」としています。あわせて壁(クロス)については「6 年で残存価値 1 円となるような負担割合を算定する」との考え方が示されています(出典: 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html)。これは賃貸借契約についての考え方であり、宿泊契約にそのまま当てはまるものではありませんが、「においの範囲」と「経過年数」で負担を考える発想は、社内の算定ルールを作るときの参考になります。
20 歳未満の宿泊者と標識まわりの注意
改正健康増進法では、20 歳未満の人は、たとえ喫煙を目的としない場合であっても喫煙エリアへ一切立入禁止とされています。これは従業員であっても同様です。また、喫煙可能な設備を持った施設には指定された標識の掲示が義務付けられており、紛らわしい標識の掲示や標識の汚損等は禁止され、罰則の対象とされています(出典: 厚生労働省 https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/point/)。
共用部分に喫煙スペースを設ける場合や、屋外に灰皿を置く場合は、標識のルールと年齢制限の周知をセットで考える必要があります。標識の見分け方は 喫煙所の標識・ピクトグラムの解説、法制度全体の整理は 改正健康増進法の解説記事 をご覧ください。屋外に自前の喫煙場所を設けるかどうかを検討している場合は 施設の屋外喫煙所をどこに作るか も参考になります。
近隣とのトラブルを未然に防ぐ運用
玄関前や駐輪場での滞留が起きにくい導線をあらかじめ作っておくと、苦情の芽が減ります。チェックイン案内に最寄りの指定喫煙所までの経路を入れる、建物の前に灰皿を置かない、といった工夫の積み重ねです。苦情が入った場合は、住宅宿泊事業法第 10 条が求めるとおり、誰から・いつ・どのような内容の申し出があり、どう対応したかを時系列で記録しながら迅速に応対するのが基本になります。特定の宿泊者や近隣住民を非難する形ではなく、事実と対応を淡々と書き留めるのが実務上は扱いやすい形です。なお、路上喫煙を条例で制限している自治体では、建物を一歩出た先の路上が規制区域にあたることがあります。区域や過料の有無・金額は自治体ごとに異なるため、案内文に書くときは必ず物件が所在する自治体の公式情報を確認してください。
おわりに:伝わる案内が、いちばん安い対策になる
禁煙運用でコストがかかるのは、事後の消臭・売止・苦情対応です。事前の一行の案内でそれを減らせるなら、費用対効果は圧倒的に前者にあります。ルールを厳しくすることと、ゲストが困らないようにすることは対立しません。「ここは禁煙です、代わりにここで吸えます」という組み合わせが、いちばん摩擦の少ない着地です。最寄りの喫煙所は モットスイタイの喫煙所マップ で確認できます。マナーの基本を案内文に転記したい場合は 喫煙マナーの基本、自治体ごとの路上喫煙のルールは 自治体別の路上喫煙と過料の解説 もあわせてご確認ください。個別の請求可否や約款の有効性については、弁護士等の専門家にご相談ください。
民泊・小規模宿で禁煙運用を整える 5 ステップ
制度の確認からハウスルールの作成、ゲストへの喫煙所案内、記録の残し方まで、運営側が着手しやすい順序で整理した手順。
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ステップ 1
自分の物件がどの枠組みで運営されているか確認する
住宅宿泊事業法の届出住宅か、旅館業法の施設かによって、適用される義務と客室の扱いの整理が変わります。観光庁の民泊制度ポータルサイトと所管の自治体窓口で、届出区分と上乗せ条例の有無を確認します。
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ステップ 2
禁煙の範囲と対象製品を書き切る
居室内だけでなく、バルコニー・専用庭・共用廊下・玄関前まで、どこが禁煙かを具体的に書きます。紙巻きに加えて加熱式たばこ・電子たばこを含むかどうか、吸い殻の持ち込みの可否も一行で明記します。
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ステップ 3
「代わりに吸える場所」を案内に組み込む
最寄りの指定喫煙所までの徒歩時間と経路を、チェックイン案内・室内の掲示・予約時メッセージの 3 か所に入れます。地図のリンクや QR コードを添え、ゲスト層に合わせて英語・中国語・韓国語なども併記します。
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ステップ 4
費用の考え方を事前に開示する
違反が確認された場合にどのような費用が発生しうるかを、清掃費と販売できない期間の補償という構造まで含めて予約前に示します。金額を明記するか実費とするかは、約款の作り方とあわせて専門家に確認します。
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ステップ 5
苦情と対応の記録を時系列で残す
住宅宿泊事業法第 10 条は周辺住民からの苦情及び問合せへの適切かつ迅速な対応を求めています。誰から・いつ・どのような申し出があり、どう対応したかを事実ベースで記録し、管理組合や自治体からの照会に備えます。
よくある質問
Q.民泊の客室は法律で禁煙と決まっているのですか?
A.一律にそう決まっているわけではありません。健康増進法第 40 条第 1 項は、この節の規定を適用しない場所として「人の居住の用に供する場所」と「旅館業法第二条第一項に規定する旅館業の施設の客室の場所」を掲げています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103)。客室内の喫煙可否は施設側がハウスルール・約款で定めるのが実務です。自分の物件がどの区分にあたるかは所管の保健所にご確認ください。
Q.ハウスルールに違約金の額を書いておけば必ず請求できますか?
A.本記事では、個別の契約における請求の可否や有効性について判断を示すことはできません。事実として確認できるのは、金額を公式に開示している施設が実在することです。京急 EX インは「部屋の売止補償及び特別清掃費として 3 万円」(出典: https://www.keikyu-exinn.co.jp/contents/info/detail/?id=1074)、ホテル日航関西空港は清掃と客室損害賠償として合計 50,000 円と案内しています(出典: https://www.nikkokix.com/en/news/8003)。約款の作り方は弁護士等の専門家にご相談ください。
Q.加熱式タバコや電子タバコもハウスルールに書くべきですか?
A.書かなければ「紙巻きでなければ良い」と受け取られる余地が残ります。宿泊業では対象を明示している例があり、京急 EX インは「禁煙ルーム内での喫煙(電子・加熱式タバコ含む)および吸い殻の持ち込みを固くお断りしております」と公式に案内しています(2025 年 3 月 11 日掲載・出典: https://www.keikyu-exinn.co.jp/contents/info/detail/?id=1074)。対象製品を一行で明記しておくのが実務的です。
Q.ゲストに「どこで吸えるか」まで案内する必要がありますか?
A.法律上の義務として定められているものではありませんが、住宅宿泊事業法第 9 条は、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明を求めています(出典: e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065)。禁煙の告知に最寄りの指定喫煙所の情報を添えることは、この説明と親和性が高く、玄関前での滞留や近隣苦情を減らす実務的な打ち手として使われています。
Q.喫煙による汚損の費用は、どう考えて算定すればよいですか?
A.宿泊契約における請求額の算定は施設ごとに異なり、本記事で一般化することはできません。参考として、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は賃貸借について、喫煙等により居室全体でクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合に限り居室全体のクリーニング又は張替費用を賃借人負担とすることが妥当とし、壁(クロス)は 6 年で残存価値 1 円となる負担割合を示しています(出典: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html)。宿泊契約への当てはめは専門家にご確認ください。
